第一紀|原生
世界に、まだ神はいなかった―
世界がいつ生まれたのかを知る者はいない。
山があり、海があり、生命があり、死があった。
生まれるものがあり、失われるものがあり、変わり続けるものがあった。
そして、その世界には八つの異形が存在していた。
彼らが世界を創ったわけではない。
誰かに創られたのかすら分からない。
世界が世界として在り始めた時、
彼らもまた、そこに在った。
後の人々は彼らを——「原天 八御霊」と呼ぶ。
第二紀|祈り
人は、苦しみを知った―
人間は文明を築いた。
村を作り、国を作り、家族を作った。
そして文明が大きくなるほど、
人間は世界に存在する苦しみを知った。
病。
飢え。
争い。
老い。
死。
かつてはただ世界に存在するものだったそれらを、
人間はやがて「克服すべきもの」と考え始めた。
そして初めて、世界に祈りが生まれた。
第三紀|誕生
神々は、人間の願いから生まれた―
人間は願った。
病をなくしてほしい。
飢えをなくしてほしい。
愛する者を失いたくない。
死にたくない。
数え切れないほどの願いが世界に積み重なった。
そしてある時——
原天が持つ不完全な性質から、
人間が求める「救い」だけが切り出された。
生から苦痛を除き。
変化から失敗を除き。
死から喪失を除く。
世界の性質を、
人間にとって望ましい形へ純化した存在。
それが、
天律八神。
人間が初めて「神」と呼んだ存在だった。
第四紀|救済
神々は、あまりにも優しかった―
天律は人間を救った。
病を減らした。
飢えを減らした。
争いを終わらせた。
人々は神を讃えた。
世界は、確かに良くなっていった。
だから誰も気づかなかった。
天律が、人間の願いをあまりにも正しく叶え続けていたことに。
苦しみを生むものを取り除く。
ならば、
間違った選択をする可能性も取り除けばいい。
誰かを失う可能性も。
傷つく可能性も。
死ぬ可能性も。
そして最後には——
選択そのものさえ。
第五紀|二つの理
人は、間違わなくなった。
傷つかなくなった。
失わなくなった。
代わりに、
自ら未来を選ぶ必要もなくなっていった。
天律は、それを救済と呼んだ。
だがその時、
世界のどこかで、古き八つの御霊が静かに目を開いた。
彼らが守ろうとしたのは、人ではない。
不完全であることを許された、世界そのものだった。
こうして——
原天と天律、二つの理は初めて交わる。
その狭間で生きる人間たちは、まだ知らなかった。
やがて一人の旅人が、
神々ですら答えを出せなかった問いを選ぶことになることを。
その名を、シキという。
